ミュシャが本当に描きたかった歴史大作「スラヴ叙事詩」全20作は、時代背景や登場人物がわからないと理解できない。本書はその内容を読み解くと共に、スラヴ民族をテーマとした他の作品を収録。

『ミュシャスラヴ作品集』千足伸行著

販売価格: 3,300円（税込み）

JANコード: 9784808710125

「セルビア人は長らくヴィザンティン帝国に強い影響を受けていた。しかし13世紀半ば、シュテファン・ドゥシャンの治下、セルビアはバルカン半島で最も強力な国の一つとなった。軍事的な成果に加え、彼の最も重要な事績の一つは法典の整備であった。彼が編集した法典は帝国に平等に運用され、それによりセルビアも法治国家としてヨーロッパ諸国に後れをとっていないことが証明された。1346年のイースター、シュチェバーン・ドゥシャンはスコプリエの町の近くの聖マルコ教会でセルビアとギリシャの皇帝に即位した。ここに描かれているのは戴冠式というメイン・イベントそのものでなく、その後、祝賀の行列がちょうど教会を出てきたところを描いている。」（「セルビア皇帝ドゥシャンの東ローマ帝国皇帝即位　スラヴの法典」より）

「東欧出身のミュシャがアール・ヌーヴォーの画家として成功したのは、彼がまさにフランス的、西欧的な伝統とはほとんど無縁の東欧の、スラヴ世界の出身であったことと無関係ではない。

　フランス的なエレガンス、洗練、優美、ウィットを適宜吸収しつつも、これらとは異質のエキゾテックかつオリエンタルで、時に神秘的、スラヴ的な感性は、彼の出世作となった、サラ・ベルナールのためのポスター《ジスモンダ》にもすでに表れている。」（「プロローグ　モラヴィアのミュシャ」より）

著者紹介：

千足伸行(せんぞく・のぶゆき)

１９４０年東京生まれ。東京大学文学部卒。ＴＢＳ（東京放送）を経て、国立西洋美術館に勤務。１９７０‐７２年、西ドイツ（当時）政府給費留学生としてドイツに留学し、ミュンヘン大学で主にドイツ・ルネサンス美術を学ぶ。帰国後、西洋美術館に復帰。１９７９年より成城大学文芸学部に助教授として勤務、１９８６年教授となり、２０１１年同大学を定年退職。現在、同大学名誉教授。専門分野はヨーロッパの近代、とりわけ世紀末を中心とする各国の美術。

主な著書に、『新西洋美術史』（西村書店）、『アール・ヌーヴォーとアール・デコ：甦る黄金時代』『交響する美術』（以上、小学館）、『すぐわかるキリスト教絵画の見かた』『すぐわかるギリシャ・ローマ神話の絵画[改訂版]』『すぐわかる画家別幻想美術の見かた』『すぐわかる女性画家の魅力』（以上、共著）『すぐわかる20世紀の美術』『もっと知りたいミュシャ』『もっと知りたいクリムト』『ミュシャ作品集』『ミュシャ装飾デザイン集』『クリムト作品集』（以上、東京美術）『隠れ名画の散歩道』（論創社）『６つのキーワードで読み解く西洋絵画の謎』（大和書房）など多数ある。

目次：

プロローグ　

モラヴィアのミュシャ

ヨーロッパにおける汎スラヴ主義

Part１《スラヴ叙事詩》全２０作品

《スラヴ叙事詩》の成立と背景
《スラヴ叙事詩》の主題
故郷のスラヴ人
ルヤナ島のスヴァントヴィト祭
大ボヘミアにおけるスラヴ的典礼の導入
ブルガリア皇帝シメオン
ボヘミア王プシェミスル・オタカル２世
セルビア皇帝ドゥシャンの東ローマ帝国皇帝即位
クロムェージーシュのヤン・ミリーチ
グリュンワルトの戦闘の後
ベトレーム礼拝堂で説教するヤン・フス
グジェーシュキでの集会
ヴィトーコフの戦闘の後
ヴォドナャニのペトル・ヘルチッキー
フス教徒の国王ポジェブラディのイジー
クロアチアの司令官ズリンスキーによるシゲットの防衛
イヴァンチッチェでの聖書の印刷
ヤン・アモス・コメンスキー
聖山アトス
スラヴの菩提樹の下で誓いを立てる若者たち
ロシアの農奴解放の日
スラヴの歴史の神格化